クラフトミードの醸し家『ANTELOPE Yasu Mead House』滋賀県野洲市

2023年10月13日 2023年10月14日

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●国内唯一のクラフトミーダリー

国内で唯一クラフトミード(蜂蜜酒)専門で醸造を行なっている滋賀県のミーダリー『antelope(アンテロープ)』へ訪問しました。

アンテロープの和訳は動物の『カモシカ』
お酒を作ること、雰囲気を作ることを「醸す」と言うことから
良いお酒を作り、良い雰囲気を作る「醸し家(かもしか)」でありたいと言う思いからこの名前をつけられたそう。

国内で目に入ることの少ないクラフトミードは、いわゆるハチミツ酒のこと。
ワインやビールなんかは歴史が古いイメージはあると思うのだけど、実は「最古のお酒」はミードで、14000年以上前からの歴史があると言われている。
海外ではロシアや東欧では飲まれることが多いそうだが、日本では飲んだことはおろか、ミードを知らない人も多いのではないだろうか。
他ならぬ僕もその1人で、たまたまantelopeさんのミードを見つけるまでは興味を寄せることもなかったし、出会わなければ今も興味を持つことはなかったように思う。

今回見学に行くまでは、ミードの作り方も知らなかったのだけど、調べてみると一番トラディショナルな造りはとてもシンプルで、主な原材料は「水とハチミツと酵母」だけ。
しかし、antelopeの造るミードを見ると、麦芽と共に醸造したビールのようなお酒や、フルーツやスパイスを使ったドライな酒、バーボン樽で熟成させた甘口の酒など、その味わいは様々。

そんな蜂蜜酒を製造・開発するantelopeの醸造家・谷澤優気(やざわゆうき)さんから直接お話を聞かせていただいた。

●antelopeを知ったきっかけ

このクラフトミードを作るantelopeさんのことは、酒屋のいまでやさんで知った。

その時に飲んだのは『The Last Supper』という、白ワインのような上質な酸の上に、はちみつのやさしい甘さが乗っかったお酒で、当時、韓国料理人の鄭大羽さんと共に行うイベントに使うお酒を探している時に出会った。

※当時のラベル

※現在はこちらのラベルで販売されている

「魚介に合う」という文言を見て、実際に彼が作る料理の「白いポッサムキムチ」という、白菜キムチに魚介、マンゴー、ビーツ、野菜を組み合わせた料理に合わせるために買ってみたところ、
優しい酸味は魚介の風味を引き立ててくれて、甘味はキムチの辛みを和らげてくれながらもマンゴーとビーツの甘みに寄り添ってくれて「このペアリングは間違いない」と感じたことを鮮明に覚えている。

実際にこのペアリングはとてもお客様からの反応が良く、ご自身でantelopeのお酒を買ってくれる人もいたほど。(しかも3本セットのまとめ買い！)。
その後も個人的に何度か他のミードも買ってみたのだけど、どれも個性があふれているし、季節によってリリースする酒が次々代わり、antelopeさんのSNSから目を離せなくなった。

今回の訪問時は出張の帰り道で、滋賀県の米原経由のルートがあったことに気付いて「ワンチャンこれ訪問できるんじゃね！？」と舞い上がり、即座にantelopeさんのInstagramへメッセージを送って見学の了承をいただいた。

●antelopeが醸す、個性あふれるミード/蜂蜜酒

様々なミードを試飲させてもらいながら一つ一つのミードについて解説をしていただいた。

ステンレスタンクの見学から始まり、醸造タンクの仕組みの説明。
アルコール発酵の過程でガスを抜くための仕組みや、澱引きをするためのタンクの設計などの解説に始まり、それぞれのタンクの中身の紹介も。
タンクの中には、ジュニパーベリーを使用したジントニックのようなミードに、グレープフルーツと共に醸造したミード。
現在は完売しており、反響もあったという「The Last Supper」も以前の物とは醸造方法を変えて仕込んでいました。

ずらっと並んだ木樽の中には、ショートケーキを思わせるイチゴを使いバーボン樽で熟成させたミードや、梅の酸味がしっかりと感じられるバレルエイジミード。

キウイのバーボン樽熟成はなぜかグレープフルーツピールのようなニュアンスが感じられたり、物によっては原料からは考えられないような香りを醸すものまで。
他にも、ブルーベリーを自然発酵させワイン樽を使ったミードはブルーベリーの風味を生かしながらも、ライトな赤ワインを思わせるような仕上がりになっているなど、樽によっても個性は様々。

当然、発酵や熟成の過程では思ったような形とは変わっていくこともあるという。
原料の香りが思ったほど出ないことがあれば、想定以上に風味が強くなることもあるし、本来半年〜1年以上は樽熟成するものも、数日で香りが出てくることもある。
作りながらも予想外のことは数多く起きている様子だったが、それすらも楽しんで醸造に挑んでいるような姿はとても印象に残った。
「君はどうしてあげたらいいんだい」と、話しかけるように試飲をしている姿は、我が子と向きあっている父親のように映る。

誰もやったことがないような試みでありながらも、理論に基づいた上で”自由”に作っているからこそ、谷澤さんは様々なフレーバーのミードを作ることができ、想定外の仕上がりになれば手を加えて調整し、それをまた次の醸造に活かすといった一連の作業にスピード感があるのではないだろうか。

●antelopeの掲げるヴィジョン

株式会社antelopeは醸造責任者で代表取締役の谷澤さんとを中心とした4人のチームで運営をしている。
antelopeとしてのヴィジョンはこう掲げている。

『ミードでファンタスチックな縁を』

「ミードというお酒を通じて出来た新しい人やもの、
考え方との出会いを僕たちは「縁」と呼び、
それを作り続けていきます。」(HPより引用)

元々谷澤さんはクラフトビールの醸造所に勤めるなど、根幹にあるのはビール作りのノウハウ。中でも、ビール業界にいた頃から”ミルクスタウト”と言うビールを特に好み、甘いお酒が好きだったという。
そんな谷澤さんは2019年に行ったビアフェスでミードと運命的な出会いを果たした。
アメリカのミーダリーが造る蜂蜜酒に感じたことのない衝撃を受け、国内初のミード専業の醸造所を創ることを決意したという。
国内はおろか世界でも醸造所が少なすぎる現状で、ご自身が感じたロマンを世界に広げることを使命に掲げ、
それからのスピード感は早く2020年よりantelopeを創業し、醸造を始めたのは21年から。

元々はガチガチに理論派だったという谷澤さんはビールもミードも研究を重ねていたそうだが、それ以上に「感性で楽しんでもらえるお酒を作りたい」という考えが強くなり、醸造は自由度高く行いながらもクオリティに上げていくことに注力している。

antelopeのミードは1種類毎の生産本数が大手に比べると少ないということもあり、リリースしたミードは瞬く間に完売してしまう。
それでもまだ認知が少ない『クラフトミード』を日常に溶け込ませるためには「裾野を広げないといけない」ということを随所で語っており、無闇に価格を上げてプレミアム化を目指すのではなく「まずは手に取ってもらうには」ということにまずは力を入れているそう。
認知の幅を広げるためにも飲食店とのやりとりは密に行なっており、エンドユーザーに伝える機会が広がって「当たり前にミードを飲んでもらえるようになって欲しい」と、数少ないクラフトミード醸造家としての責任感を強く担っていた。

◆醸し家としての「原材料への追求」

このロマンを広げるために持っている信念の一つに「原材料の追求」が挙げられる。

様々なフレーバーのミードを出しているが、その原料を育てる農家さんや養蜂所にも日本全国周り、生産者の方との縁を大切にしながらミード造りに及ぶ。
前述した”ブルーベリーを使ったミード”などは商品名に『久美子』を掲げているが、近隣の「Lakes Farm」の農家さんとの信頼関係の元、無農薬栽培しているブルーベリーを一緒に収穫作業をして使用している。

原料となるハチミツも、ミャンマー産の物を使用しているのはミードとして仕上がる最終的な形に理想的な味わいのものを選んでいるからこそ。
antelopeが使用するミャンマー産ハチミツは甘さだけでなく、苦みや渋みが特徴にある濃厚な味わいのものを使用していて、ミードにした時に骨格を作り、甘口だけではなくドライなものまで幅広く造れるのだという。

「原料と向き合うためにも、醸造家として原料を使っているミャンマーにも足を運ばないといけないなーと思うんですよね」と語る谷澤さんは、antelopeチームで2023年から畑を借りて自身でハチミツを取るため養蜂にも挑戦を始めた。
この蜂蜜からミードを造るには3年と時間もかかるそうだが、養蜂に挑戦する姿はYouTubeで発信しており、リアルタイムに蜂蜜が取れるまでの流れを提供してくれている。

YouTubeアカウントはこちら

たくさんお話を聞かせていただいたが、醸造家の谷澤さんはまだ29歳。
国内唯一のクラフトミーダリー専業の醸造家として並々ならぬパッションを持つ、谷澤さん含むantelopeチームが造るミードからは目が離せないし、ぜひ飲み手の皆さんにも興味を持っていただければ嬉しい。