富山・氷見 〜SAYS FARM~

港町の丘に佇むワイナリー・SAYS FARM(富山県氷見市)

富山県の港町から丘に上がった、氷見の地に佇む「セイズファーム」

2007年に創業されたこのセイズファームは江戸時代から続く「つりや」という魚問屋が母体。
この魚問屋の社長の弟である釣誠二さんが「ワイナリーをやる!」と言う一言からワイナリーの設立が決まったが、40代半ばにして誠二さんは亡くなってしまったそう。
スタッフの皆さんが誠司さんの意思を受け継ぎ、氷見の土地を最大限表現するために丁寧な管理が行われている。

セイズファームでは、この土地を最大限表現すると言うところから、100%自社ブドウのみを使用し、ワイン造りに挑む。
しかも、作っているのはワインだけではなく、リンゴや洋梨、いちじく、養蜂、鶏と山羊の飼育まで幅広く行なっていた。

そんなセイズファームで、栽培醸造責任者を勤める田向 俊さんにお話を伺った。

セイズファームの畑

セイズファームがある氷見市は、能登半島の付け根に位置する、富山県の北西部にある土地。
富山湾に面した氷見漁港から小高い丘に向かっていくと、看板には「SAYS FARM」の文字が。
看板を背に丘を上がっていくと、丁寧に手入れされた美しいブドウ畑が左右に見えてくる。

畑を抜けた先に醸造所、テラス、綺麗な庭があり、
ブドウ畑の横にある小屋からは真っ白なヤギが出迎えてくれる。

振り向くと、氷見の街並みから富山湾までを見渡すことができる風光明媚な土地。
車を降りると心地の良い風が吹き、潮風の香りが感じられる場所でした。

そんなセイズファームが畑を持つ丘は標高80m~220mほどの高低差があり、8haほどの農地を持つ。
造るワインは全て自社栽培のブドウで造っていて、この潮風が吹く土地に合わせた栽培方法を行なっていた。

畑はフランスの伝統的な仕立ての垣根仕立て。
多くのワイナリーが選択するこの仕立ては、ブドウ木に支柱と針金によって枝を誘引する方法。
この仕立てによって、作業性が高く、日照量のコントロール、通気性の確保などのメリットがある。

他のワイナリーと比較すると、垣根の幅は2.5m、樹間も1.5m幅と広めに取られている。
この幅を確保することで、雨量が多い北陸でも風通しが良く、樹間が広いことによって根が長く張る。

栽培品種はシャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、ピノ・ノワールなど、国際品種を中心に植えられている。
中でも、「セイズファームといえば」と言われるほど注目を浴びているのはアルバリーニョと言う品種。

アルバリーニョはスペイン北西部の海岸沿い・リアスバイシャスの地域で主に育てられている品種だが、この品種は果皮が暑く、湿度に強いことから、海沿いの地域での栽培に適していると言われる。
この品種が氷見の土地に向いているんじゃないかと言う発想から植えてみたことから、栽培のしやすさ、品質共に良いものが仕上がると言うことで、セイズファームのフラッグシップ的な役割となっている。

・セイズファームのワイン造り

ワイン造りにも、氷見の土地を生かすと言うコンセプトが現れており、
基本的に培養酵母も使わず、果実の純粋な味わいでワイン造りをされている。

醸造所も、このブドウ畑の丘沿いに建てられており、中も見学させていただいた。

圧搾、発酵といった作業はこの一階で行われており、
発酵が完了すると地下の貯蔵庫にホースで流せるような設計になっていた。

この設計も「グラビティ・フロー」と呼ばれる手法で、
ポンプで果汁を流さずに、重力で流れるようにすることで、極力ブドウ果汁にストレスを与えず、エレガントな味わいを保つことができると言う方法だ。

酵母も添加しないので、自然由来の酵母では発酵に時間がかかる。
この発酵温度も、庫内の温度を均一に保ち、2週間ほど発酵期間を設けてから、
温度の低い地下貯蔵庫に移すと言ったように管理がされている。

話を伺っていく中で、個人的に面白いと感じたポイントも2点メモ的に。

発酵中の葡萄果汁は、糖分がアルコールに変わっていく過程で、熱を持つ。
この温度は20度ほどの温度に上がり、酵母や微生物の活動は活発になる温度帯だ。
この発酵温度が高い状態が続くことにより、微生物に汚染されるなど、時には欠陥臭になることもある。
この現象というのは大きなタンクになる程、温度は高い状態で保ってしまうので汚染のリスクが高まってしまうので、ステンレスタンクでのキチンとした温度管理が求められるのだという。

もう一つはこのセイズファームさんで初めて見た、樽形のステンレスタンクだ。
一般的に、貯蔵中の樽は横向きに貯蔵される。
この樽形によって発酵中に対流が起こりやすいのがメリットとしてあるそう。
ステンレスタンクは円柱型が一般的だと思っていたが、この樽形のステンレスタンクであれば対流が起こるという特性を知れたのはとても興味深かった。

「ワインツーリズム」としての役割

セイズファームではブドウ栽培、ワイン醸造のみならず、
レストラン、宿泊、国内商品のショップ、ギャラリーも併設されている。

レストランでは富山県の魚介を活かしたコースに、キッチン付きのゲストスペースで食事を作りながら仲間内でわいわいと過ごすこともできる。

ショップでは、製造本数の限られたワイナリー限定のワインの販売・試飲に、自社製品の蜂蜜、富山県内で造られる真鍮やシャルキュトリー、氷見湾で取れた魚介の加工品なども販売している。
ギャラリーにはセイズファームの考えに共感された作家の方々が作品をおろし、落ち着いた別室でゆっくりと作品と向き合うこともできる。

国内ワイナリーの良さとして、我々日本人にとっては海外に比べ、産地にすぐに行けるというのが魅力の一つである。
過疎化とコロナ禍の影響から観光客が減った地方にとって、こういった旅とワイン造りが密接に感じられる施設があるというのは、これからの日本ワイン文化の発展と、地域の発展に繋がっていくのではないかと希望を持つことができる。

今回は我々も見学だけに収まってしまったが、また伺うときには氷見の魅力を最大限感じに行きたい所だ。

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